ボンクリ・フェス2017 “Born Creative” Festival 2017
藤倉大(アーティスティック・ディレクター)よりメッセージ
© Seiji Okumiya
「ボーン・クリエイティヴ」、略して「ボンクリ」。
これは、「人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ」という意味。
数年前から僕がやっている福島県相馬市での作曲教室では、5歳から高校生までを対象に世界から現代音楽のエキスパートの演奏家を迎えて特殊技法等をみっちり紹介し、その場で子供達が新しい音楽(現代音楽と呼ぶ人も多いかも知れない)の作曲をする。しかもすべての音や指示を楽譜にきちんと記し、自分の作曲した作品をその場でプロの演奏家に演奏してもらう。子供達が作曲中、演奏家は子供達が作品の一部を確認したり、コラボレーションし、アイディアを楽譜にするために待機し、直ぐに試演できるスペシャルな環境を作っている。
この作曲教室を何年か継続していてわかったことは、全ての人間は子供の頃、「新しい音楽」「新しい音」、そして5歳の子供の言葉を借りると「変な音」が好きだったということだ。
なぜかそのクリエイティヴィティは成長するにつれ、失われていく。
この「ボンクリ」は、大人になっても5歳の子供のままクリエイティヴでいる人達の作品を、0歳の子供から大人まで楽しめる新しい音楽に触れるためのイベント。演奏家と共に参加し、一緒に音楽を作るワークショップもあり、即興音楽もあり、日本の伝統音楽である雅楽も、エレクトロニクス(電子音楽)も、現代音楽アンサンブルもあり、ペルー音楽も、オーケストラ作品もある。丸1日、東京芸術劇場館内に「新しい音楽」が満ち溢れる。一生分、少なくとも1年分の“世界中の新しい響き”を堪能することができるまたとない機会。5月4日は是非芸劇へ!
藤倉大(作曲家/ボンクリ・フェス2017 アーティスティック・ディレクター)
坂本龍一さんのコメント
音楽にもまだこんな可能性があったのかと僕を驚かせてくれる友人の作曲家 藤倉大さんが、「ボーン・クリエイティブ・フェスティバル」という音楽祭を5月のはじめに東京で立ち上げることになった。そこでは彼自身の作品のほか、武満徹やデヴィッド・シルヴィアン、そして僕の最新作や懐かしい作品などが気鋭の演奏家たちによって演奏されることになっている。
「ボーン・クリエイティブ(略してボンクリ)とは「人は生まれながらにしてクリエイティブだ」という意味。この言葉から思い出すのは、ピカソが晩年になって「ようやく子供のように絵を描けるようになった」と喜んだというエピソードだ。彼が本当に子供のように描けたかどうかは分からないが、確かに子供は生れながらに、みな天才だ。そこに創造性の大きなヒントがあると思う。大さんの「ボンクリ」が、音楽やアートの未来に向けて風穴を開ける画期的な試みになることを期待したい。
坂本龍一
Message from Artistic Director, Dai Fujikura
It is said that ‘humans are born creative.’
“Born Creative” is an event where everybody, 0 year olds onward, can experience and enjoy the unusual music created by today's most exciting musicians who have not yet lost their 5 year-old creative minds. This is an opportunity for you to join, co-create, and enjoy a range of music, such as improvisation, traditional Japanese GAGAKU, electronics, Peruvian traditional music, and contemporary ensemble music.
5 year-old creative minds?
In Soma city, Fukushima, I hold a series of music composing workshops. I have been working for several years with local children ranging from 5 year-olds to some high school students. To our workshops we also invite some renowned contemporary music players from all over the world (some will also appear in Born Creative Festival). Through working with these guest musicians, the children are exposed to a variety of unique and new sounds.
In our workshops, the children make their own music. In my class no rules. Any sound, any music is allowed. Teachers (me included) are just there to assist these young composers. As one 5 year old said “I want to make a strange music with strange sound!” So he should!
All the music created in the workshop is notated by young composers themselves and played by visiting professional musicians on the spot (sometimes being told by 5 year old "That is not how you do it". We keep trying until young composers are happy). Notation makes it so you can communicate with musicians whom you have never met until now, nor share the language you speak.
It is a wonderful experience for guest teachers too.
After several years of holding these workshops, I came to the thought that all human beings love new sounds. On the journey to our adulthood, somehow the creativity once we all had inside us fades and hides away.
On May the 4th, Tokyo Metropolitan Theater will be filled with our ‘new music‘ throughout the day.
Come, join and embrace the new sounds from all over the world which can give you a year's worth, if not, a lifetime's joy of music.
Dai Fujikura, Composer / "Born Creative" Festival 2017 Artistic Director
ボンクリ・フェス2017 プログラム
アトリウム・コンサート
メシアン/『峡谷から星たちへ』より第6曲「恒星の呼び声」
ホルン:福川伸陽
藤倉大/ゆらゆら
池辺晋一郎/『ホルンは怒り、しかし歌う』から抜粋
藤倉大/ポヨポヨ
ホルン:福川伸陽
ロバート HP プラッツ/線香花火
笙:東野珠実*
藤倉大/neo
三味線:本條秀慈郎
清元栄吉/『望郷』より「トルコ行進曲」
篳篥:中村仁美*
高橋悠治/『微かに』より「ホタル」
三味線:本條秀慈郎
ベリオ/シークエンツァV
トロンボーン:今込治**
伊佐治直/舞える笛吹き娘
篳篥:中村仁美*
ドナトーニ/NIDI I
ピッコロ:木ノ脇道元**
石川高/兆し(きざし)
笙:石川高*
西村朗/玉響
村治奏一/虹
藤倉大/チャンス・モンスーン
ギター:村治奏一
メシアン/『峡谷から星たちへ』より第6曲「恒星の呼び声」
ホルン:福川伸陽
*-伶楽舎メンバー
**-アンサンブル・ノマドメンバー
「ポーリン・オリヴェロスの部屋」
演奏:クレア・チェイス
曲目:ポーリン・オリヴェロス /Thirteen Changes
Sounds from Childhood
The Tuning Meditation
Old Sound New Sound Borrowed Sound Blue
「ペルー音楽の部屋」
演奏:イルマ・オスノ
協力:笹久保伸
曲目:ワイノ(伝統的な歌・舞曲)
ハチュア(脱穀の仕事歌)ほか
「ノルウェーの部屋」
「三味線の部屋」
演奏:本條秀慈郎
協力:桐朋学園芸術短期大学音楽専攻日本音楽専修三味線卒業生/在学生有志、慈連間
曲目:傳[つたわる]~
高田新司/歌垣 -UTAGAKI-
古[いにしえの]~
作曲者不詳/《糸竹初心集》より「小倉踊り」
重[リンクする]~
J.S.バッハ/《無伴奏チェロ組曲第2番》ニ短調BWV1008より「サラバンド」
現在[いま]~
藤倉大/neo (音緒)ほか
スペシャル・コンサート
①デヴィッド・シルヴィアン&藤倉大/Five Lines(ライブ版世界初演)
The Last Days of December (ライブ版世界初演)
②坂本龍一/tri(ライブ版世界初演)
③武満徹/『秋庭歌一具』より 第4曲「秋庭歌」
④「秋庭歌」ライブ・リミックス
⑤ブルーノ・マデルナ/ひとつの衛星のためのセレナータ
⑥大友良英/新作 (世界初演)
⑦坂本龍一(藤倉大編曲)/thatness and thereness (アンサンブル版世界初演)
⑧藤倉大/フルート協奏曲 (アンサンブル版日本初演)
アンサンブル・ノマド(指揮:佐藤紀雄)[1, 2, 5~8]
小林沙羅(ソプラノ)[1]
伶楽舎[3, 5]
ヤン・バング(エレクトロニクス)[4]
ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)[4]
藤倉大(エレクトロニクス)[4]
大友良英(ターンテーブル)[6]
クレア・チェイス(フルート)[8]
“Born Creative” Festival 2017 Program
Atrium Concert
Olivier Eugene Prosper Charles Messiaen: Des Canyons aux étoiles 6. Appel interstellaire
Nobuaki Fukukawa
Dai Fujikura: yurayura
Nobuaki Fukukawa
Shinichiro Ikebe: Horn gets angry, yet he chants (extract)
Nobuaki Fukukawa
Dai Fujikura: poyopoyo
Nobuaki Fukukawa
Robert HP Platz: Senko-hana-bi
Tamami Tono
Dai Fujikura: Neo
Honjoh Hidejiro
Eikichi Kiyomoto: Turkish March from Nostalgia
Hitomi Nakamura
Yuji Takahashi: kasukani 5.hotaru
Honjoh Hidejiro
Luciano Berio: Sequenza V
Osamu Imagome
Sunao Isaji: Dancing Piper
Hitomi Nakamura
Franco Donatoni: NIDI Ⅰ
Dogen Kinowaki
Ko Ishikawa: kizashi
Ko Ishikawa
Akira Nishimura: Tamayura
Soichi Muraji
Soichi Muraji: Rainbow
Soichi Muraji
Dai Fujikura: Chance Monsoon
Soichi Muraji
Olivier Eugene Prosper Charles Messiaen: Des Canyons aux étoiles 6. Appel interstellaire
Nobuaki Fukukawa
Pauline Oliveros Room
Claire Chase
Pauline Oliveros: Thirteen Changes
Sounds from Childhood
The Tuning Meditation
Old Sound New Sound Borrowed Sound Blue
Peru Room
Irma Osno
Shin Sasakubo
Norwegian Room
Jan Bang
Nils Petter Molvaer
Shamisen Room
Honjoh Hidejiro
Toho Gakuen College of Drama and Music graduated students and students (Shamisen)
Jirenma
[ TSUTAWARU ] ~
Shinji Takada: -UTAGAKI-
[ INISHIENO ] ~
unknown: Shichikushoshinshu ogura odori
[ LINKSURU ] ~
Johann Sebastian Bach: Cello Suite No.2 in D minor, BWV 1008
[ IMA ] ~
Dai Fujikura: Neo
Special Concert
1. David Sylvian & Dai Fujikura: Five Lines
The Last Days of December
2. Ryuichi Sakamoto: tri
3. Toru Takemitsu: In an Autumn Garden
4. “In an Autumn Garden” Live Remix
5. Bruno Maderna: Serenata per un Satellite
6. Yoshihide Otomo: Mirai (world premiere)
7. Ryuichi Sakamoto (arr. Dai Fujikura): Thatness and thereness
8. Dai Fujikura: Flute Concerto (Ensemble Version)
Ensemble Nomad (Conductor: Norio Sato) [1,2,5~8]
Sara Kobayashi (Soprano) [1]
Reigakusha (Gagaku Ensemble) [3,5]
Jan Bang (Electronics) [4]
Nils Petter Molvaer (Trumpet) [4]
Dai Fujikura (Electronics) [4]
Yoshihide Otomo (Turntable) [5,6]
Claire Chase (Flute) [8]
スペシャル・コンサート【藤倉大による曲目解説】
①デヴィッド・シルヴィアン&藤倉大/Five Lines(ライブ版世界初演)
The Last Days of December (ライブ版世界初演)
この作品は僕とデヴィッド・シルヴィアンが長年かけて、毎日メールしあい、ニューヨークで録音し、お互いに(おそらく)尊敬しながらも時には大喧嘩もして(笑)、やっとできた共同作曲作品の2曲。僕は日本で中学生をしている時からデヴィッド・シルヴィアンのファンだ。ずっと一回で良いから一緒に仕事をしてみたいな、と夢みていたら、一回お会いすることができた。そこで僕の音楽を彼が聴き、時には1日4通くらいのメールのやりとりをほぼ毎日するほど仲良くなった。楽譜を読まないデヴィッドにどうやって今作っているこの共同作曲の作品の自分の部分を彼に聞かせるか、をとっても悩んだのを思い出す。ニューヨークに行って録音し、歌の部分はデヴィッドが作曲したのだが僕が思い描いていたのとは全く違う、でもデヴィッドの方が(当たり前ながら)数倍良い! デヴィッドは昔から自分の作品がヴォーカリストとしての作品ではなく、クラシックの作品みたいに、自分が舞台に立たずに作曲者として作品が演奏されたい、と常に言っていたのを思い出した。それで、今回は音域から声質から全くデヴィッドと違う小林沙羅さんの声で歌ってもらいます(デヴィッドはこの事をとても喜んでいたし、今回の為にこの2曲を楽譜にしたのだが、それを見て「美しい」と読まない楽譜みながら言っていた。楽譜起こしも大変だったけど僕もそう言ってもらえて嬉しかった)。作曲家としてのデヴィッド・シルヴィアンを聞いてみてください。
②坂本龍一/tri(ライブ版世界初演)
坂本龍一さんはもうここ何年も仲良くさせていただいて、結構定期的にメールでお話しする事もあります。おそらく坂本龍一さんの作品はご本人曰く「自分より、よく知っている」というほど僕はかなり詳しく昔から(中学生の時から)聴いて知っています。今回もこのボンクリ・フェスを考えていた時にたまたま坂本さんのこの作品の楽譜について僕に質問されたのでこの作品の存在を僕は知る事ができました。結構歳下の僕なんかに質問をさらっとする所が坂本さんのすごい所。楽譜を見るとすごく緻密に書かれた現代音楽作品。これがコンサートホールでどう響くか、すごく楽しみ。
③武満徹/『秋庭歌一具』より 第4曲「秋庭歌」
この作品は僕にとって武満作品で一番好きな曲です。海外CDリリースでは、ずっとこの4曲目だけがリリースされていた。これが最初に書かれたメインの作品だと思う。よってその思い入れのあるこの曲を今回入れました。
④「秋庭歌」ライブ・リミックス
このライヴリミックス、というのは僕が最初に知ったのはヤン・バングが主催するノルウェーの即興音楽祭「プンクト」でなぜか僕の個展をしてもらった時だ。おそらく僕の作品のみ「譜面台」が必要なコンサートだったのだろう。その時は僕の娘が生まれる時だったので僕は聴きに行けず。その数年後もう一回今回は僕を演奏家(キーボード)として呼んでもらい、その時にこのライヴリミックスを初めて体験+演奏した。全てがライブなので、この演奏の前に演奏された素材(今回は「秋庭歌」)が変調されるだけではなく、僕が今弾いた音が延長上に鳴っていたり、など。こういう音楽の作り方もあるのか!と新鮮だった。それを今回ここでできたらな、と思いました。
⑤ブルーノ・マデルナ/ひとつの衛星のためのセレナータ
この作品は僕の尊敬するノマドの指揮者/ギタリストである佐藤紀雄さんの提案です。佐藤さんはこの作品を何回も演奏なさっているようで、即興でありながら書かれている部分もある、美しい雰囲気を出す作品です。
⑥大友良英/新作 (世界初演)
大友良英さんは単に僕が個人的なファンでありました。デヴィッド・シルヴィアンのリミックスなんかをした時に渡されたデータにOtomoと書かれたトラックがあったり、「あーこれがあの大友良英さんの演奏したトラックか!」と思いながらいじったりしていたものです。大友さんも欧州の現代音楽祭などでもよく出演していらっしゃっていて、実は2005年のドナウエッシンゲンでも2016年のブリュッセルの音楽祭でもちょうど僕のコンサートの次の日、とか直後、直前などで、ニアミスで今でも実際にはお会いしたことがありません。今回も何かこのフェスで演奏できる作品はありませんか?とお尋ねした所、「せっかくなので新しい曲書いていいですか?」とおっしゃっていただき、楽しみにしています。
⑦坂本龍一(藤倉大編曲)/thatness and thereness (アンサンブル版世界初演)
僕は他の人の音楽をオーケストレーションする事はまずありません。ですが、前回坂本龍一さんのバレエ・メカニックのオーケストレーションをしたのに続いてこの作品をオーケストレーションしました。バレエ・メカニックのオーケストラ版を一人で聴きに行った僕の母は「あー、よく大の部屋から流れていた音楽だった」と言っていたが、これもその「よく流れていた」音楽が原曲だ。美しいワルツなのに、ブチっという太いアナログシンセが原曲。それをどうアンサンブルで表すか、を念頭にオーケストレーションしました。かなり原曲に忠実にやったつもりです。
⑧藤倉大/フルート協奏曲 (アンサンブル版日本初演)
この作品は僕の大親友フルート奏者クレア・チェイスに書いた協奏曲。名古屋フィルで僕のコンポーザー・イン・レジデンスが決まった時に真っ先にクレアに協奏曲書かせてください、と名古屋フィルにお願いして実現した。オーケストラ版とアンサンブル版と2つあり、アンサンブル版が日本で演奏されるのはこれが初めて。初演は2015年12月だったにも関わらずもう5回くらいいろんな所で再演されている。クレアはアメリカのアンサンブルICEのメンバーであり、そのICEと録音したのがこのコンサートの冒頭のデヴィッド・シルヴィアンとの共同制作作品。ヤン・バングとはシルヴィアンとのリミックスで僕は一緒に参加していて、大友さんとは間接的にリミックスで関わっている。ノマドは僕に日本で初めて委嘱されたのを演奏してくださった楽団(のちにその作品Abandoned TimeはICEによって録音されリリース)。こうして演奏家達の面でも直接的、間接的に繋がっているこの曲目。是非お楽しみに!