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2015-2016 海外オーケストラシリーズⅢ

フランクフルト放送交響楽団

聴き慣れたチャイコフスキーのコンチェルトに新風を吹き込む

アンドレス・オロスコ=エストラーダ

© Werner Kmetitsch

 音楽家は繰り返し同じ作品を演奏しても、そのつど新しい作品と向き合う思いで演奏し、弾き慣れた作品に新風を吹き込む。
 アリス=紗良・オットも、モットーは「常に新鮮な気持ちで作品と対峙し、演奏するたびにその作品の新たな発見をすること」。
 今回共演する指揮者、アンドレス・オロスコ=エストラーダとは初共演。まさに新鮮な演奏が期待できそうだ。

「ヨーロッパでは、オロスコ=エストラーダの評価は非常に高いですね。情熱的でエネルギーに満ちあふれた演奏をするマエストロだといわれています。どんなチャイコフスキーになるか、いまからわくわくしています」

アリス=紗良・オット

アリス=紗良・オット
© Marie Staggat

 こう語るアリスは、フランクフルト放送交響楽団とは旧知の仲。ドイツの名門オーケストラとの息の合った演奏に期待がかかる。

「私は、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、これまで70回ほど演奏しています。初めてオーケストラとこのコンチェルトを演奏したのは日本で、札幌交響楽団との共演でした。それから現在までさまざまな指揮者、オーケストラと共演していますが、いつも作品のすばらしさに驚かされます。何度演奏しても、チャイコフスキーの旋律やリズム、構成、表現、主題の扱いなどに魅せられるからです」

 チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は第1楽章が長大で、華麗かつ壮大である。続く第2楽章はフランス民謡からとられた主題が美しい緩徐楽章。そして第3楽章はロシア舞曲風の旋律が顔をのぞかせる静と動のコントラストが印象的な楽章である。

「17歳のとき、日本公演の後、キエフ国立フィルとの共演でこのコンチェルトを演奏する機会があったのですが、そのときにチャイコフスキーがよく作曲に使っていたカメンカの家(現在は博物館)を訪れました。ここで、第3楽章を弾いたのですが、現地の方たちにこの楽章はウクライナ民謡から主題がとられていると聞き、印象がガラリと変わりました。それまでは力強く弾いていたのですが、民謡の美しさを表現するようになりました」

 彼女は、デビューからまもないころは、自分の作りたい音楽を一心不乱に追求するタイプだった。しかし、近年はより自然に、作品の内奥に迫り、あくまでも作曲家の魂に寄り添うという気持ちを大切にしている。そんなアリスが胸躍らせているマエストロとフランクフルト放響との共演は、まさに新たなチャイコフスキーとの邂逅になるに違いない。
アリスのピアノは聴き手を元気にさせてくれる個性と情熱と、進取の気性に富む。さあ、第3楽章の解釈・表現に期待しましょう!

伊熊 よし子(音楽ジャーナリスト)

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