東京芸術劇場 コンサートオペラvol.2
ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロス」
「ドン・カルロ」または「ドン・カルロス」
佐藤正浩(指揮)
サンフランシスコ・オペラの芸術監督だったテリー・マキューエン氏(英DECCA社の名プロデューサーでもあった)に「在任中一番思い出のプロダクションは?」と尋ねたら、「トーマス・シッパース指揮の『ドン・カルロス』」と答えた。そして「フランス語版5幕版のだよ」と念を押すように付け加えた。その当時『ドン・カルロ』はイタリア語、と思っていた僕は戸惑ったが、後にパリ、リヨン、ロンドンで蘇演されたパリ初演版『ドン・カルロス』(パッパーノ指揮/アラーニャ、マッティラ、ハンプソン)に接した際(実際僕もコレペティで加わった)、「これぞこのオペラのあるべき姿」と認識させられた。フランス語と旋律が見事に一致し、イタリア語版にある変なアクセントのズレがない。ヴェルディはフランス語に作曲をしていて、ロンドン初演に際しイタリア語版が作られた時、急を要した為かヴェルディ自身はそれに積極的に関わっていない。いわゆる「ゴースト」が書いたことになる。その他、フォンテンブローの出会いの場面、B-durではなくC-durで歌われるカルロスのアリア、エリザベートとエボリがヴェールを交換する場面、ロドリーグの死の後、フィリップによって歌われるレクイエム(後に『レクイエム』のLacrimosaへ)等、フランス語版にしかない魅力が隠されている。無論フランス人を意識して書かれたであろうオーケストレーションはこの上もなくエレガント!実際ヴェルディがどの形態を自分の『ドン・カルロ(ス)』としたかわからないが、今回演奏するパリ初演版こそ、ロクルの台本に純粋に向き合ったヴェルディの姿が垣間見れる。