ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場「ガリバー旅行記」
演劇評論家の故扇田昭彦さんが、シビウ国際演劇祭で「ガリバー旅行記」を観劇されて執筆された文章の一部を紹介いたします。
『ガリヴァー旅行記』(一七二六年)と言えば、小人国(リリパット国)と大人国(ブロブディンナグ国)のイメージが強い。このプルカレーテ版の舞台にも二つの国の話は出てくるが、舞台の芯となるのは原作の第四話「フウイヌヌ国」だ。高度な知性を備えた馬たち(フウイヌム)の支配下にある、人間そっくりの愚かなヤフーたちの話である。簡素で荒涼とした装置で演じられる、視覚性の強い約一時間半の舞台だった(英語字幕付き)。
(中略)
現代の世界が愚かに争いあう無数のヤフーたちに覆われ、支配されていることを暗示する鮮烈な舞台だ。『ガリヴァー旅行記』はもともとスウィフトが当時の英国に対する痛烈な批判と風刺を込めた作品だが、プルカレーテの演出はスウィフトの精神を継承し、それに喜劇性のある現代的な鋭い形を与えた。
冷徹な美意識、残酷なイメージと笑い、人間と動物を行き来する身体性の強い演技、寒色系の舞台美術など、プルカレーテ演出の特色がよく現れた舞台でもある。
(ダンスマガジン2012年8月号より)