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はじめまして、弱いい派:参加団体紹介(ウンゲツィーファ)

稽古場インタビュー②

ウンゲツィーファ 作・演出・出演:池田亮(ゆうめい)、金内健樹(盛夏火)、
金子鈴幸(コンプソンズ)、黒澤多生(青年団)、中澤陽、本橋龍(ウンゲツィーファ)

池田は電車寝過ごしのため不在

今回は、「ウンゲツィーファ」の稽古場にお邪魔し、新作『Uber Boyz』で作・演出・出演を務められる皆さんにお話を伺いました!

『Uber Boyz』稽古場でのインタビューより

皆さん、本日はお忙しい中お集りいただきありがとうございます。色々とお話を伺えればと思います。よろしくお願いいたします!
まずは本橋さんにお伺いします。稽古の進捗はいかがでしょうか?

本橋さん(以下、本橋):今は戯曲の筋が書き終わって、頭から最後までみんなで動いてやってみている、という状態ですね。戯曲を作るのに一番時間がかかりました。初めての感覚で、みんなどういう風にやっていけばいいんだろうって戸惑いながらやっていたところはありますね。動きの方は各々、自由にやってもらってます。

今回は皆さんで作られているということで、実際どのように進めていかれたのでしょうか?

本橋:まず、みんなで世界観について話し合って、ある程度世界観が出来上がってしまえば、と思っていたんですけど、なかなかまとまらなくて……

中澤さん(以下、中澤):それぞれ「こういう世界観だったらこういう会話もあるよね」というのを出してもらって、そこからどんどん、じゃあ誰が主人公でどういう話にすればこの話はまとまるぞ、というのを言っていって。試しにみんなで、一人1ストーリー、冒頭のシーンを書いてみたりもしました。

本橋:そうですね、みんなに冒頭を書いてもらいました。世界観はまとまらなかったので、まとまらない中でスタートしてみようと。結局最後までまとまらないまま、その「まとまらない」というのがある意味一つの世界観だと僕個人は解釈しています。

中澤:一番最初は、ただ雑談だけ書いてみようみたいなことをしました。世界観や設定というよりかは、単純に作品の中身が複雑だ、みたいなのが良いよねと、僕らで雑談している会話の感じをそのまま書いてみたりしました。けっこう意味わかんない感じのときありましたよね。そこから世界観ちゃんと作らなきゃだめだね、となり…

本橋:そうだね、それが一番最初だったね。雑談のテキストを作る時間がありました。池田くんと中澤くんが書いてくれたよね。

『Uber Boyz』稽古場より

皆さんそれぞれどのような要素を作品に持ち込んでいったのか、伺えますでしょうか?

黒澤さん(以下、黒澤):俺が一番この中で脚本を書いたことがなくて、だから実際に自分でも書いてみたけど、やっぱり「これはひどい」って思ってしまって。自分はあまり脚本出しはしないで、みんなから上がってきた脚本をまとめる方に終始したかなという感じです。

本橋:黒澤くん、書いても見せてくれないから、「見せてよ見せてよ~」って言って。そしたら「あ、もう消したんで」とか言われたり(笑)

黒澤:いやもう、本当に見せられるものじゃなくて。書く人ってすごいなぁって思いました。

本橋:でも、最後の方はGoogle driveを使ってみんなで書き込んでいったんですけど、黒澤くん、けっこう書き込んでくれて。普通に良い感じの台詞を書いてくれてましたけどね。全然、書けるなぁと思っていました。

金子さんはどうでしたか?

金子さん(以下、金子):えっと…けっこうみんな小出しにアイディア出していったので、俺が何をやったみたいなのは、うーん……

本橋:金子くんは、冒頭のシーンに割と長めの、しっかり書き込んだテキストを書いて出してくれました。

黒澤:そこに金子くんオリジナルの設定とか色々あったりして、それを、あ、これ面白いから採用したいね、みたいな。あと名前を最初にみんな決めたんですよね。自分のキャラクターの名前は自分で決めよう、とか。

金子さんの役名は、「コナン」ですね。

金子:なんの思い入れもないんですけどね、コナンには。

黒澤:Zoom会議のときに、役名それぞれ決めようってなって。その時金子くんが自分の家の本棚から名前をつけようとしてて、「それコナンじゃん」って。

金子:そこから色々連想した設定もあって。意外とコナンのこと覚えてるなぁって(笑)

本橋:金子くんのテキストを見たとき、すごく「コンプソンズ」だと思って。なるほど、という感じがしました。やっぱりそれぞれが書くと、当然それぞれの色になって。大筋の流れは決まりつつあったんですけど、同じ流れでも書く人によって色が違ってくるのは面白いなと思いました。

金子:世界観が固まった段階で、シーンごとに人物の出入りは決まったんです。このシーンは誰と誰が喋って、誰がハケていって……という。その段階でみんなで一斉に書いたので、流れは同じなのに全然違うテキストが何個かできて、それをミックスしていった、みたいな感じでしたね。

面白い作り方ですね。IFの世界がいっぱいできたというか……

本橋:そうですね、面白かったです。

続いて、中澤さんはどうでしたか?

中澤:僕も劇作家ではないので、普段からテキストを書いたりはしないんですけど、基本的には本橋さんたちと相談して、どういうことを喋ってほしいかな、ということを文字にしました。あとは誰かがまとめてくれるだろうという感じで……(笑)最初は、ゼロからというより、一番初めに本橋さんが書いてくれた冒頭のシーンがあって、こういう流れだったらもうイケるじゃんと思ったんですけど、とりあえずそれを全部破壊する感じで、反対のことを書こうと思ったんですね。筋はそのままだけど、全部破壊したようなものを出したら、それがけっこう残っていて……大丈夫なのかなって思うんですけど(笑)ダメって言われてもいいやと思ってやりました。

本橋:中澤くんは一番最初に僕が出したテキストを作り変えてくれたので、僕としてはこうして集団で作る意義を改めて感じた瞬間でした。普段自分で書いているといつも同じ感じになるのを、どうやったら抜け出せるんだろうって、もう何年も悩んでいたんですけど……割と単純に、たとえば「バスケ」っていうキャラがいるんですけど、そいつの名前を「ババババババスケ」みたいに書いてきたりして、なんかバグってる感じが出ていて。こういう変換の仕方をなんで今まで思いつかなかったんだろうって思いました。うれしかったですね。すごく勉強になりました。この公演がどうなっても持ち帰れるものがあるなと……(笑)

一同:(笑)

ちなみに、中澤さんは今手元にペストマスクを持ってらっしゃいますが、それは私物でしょうか……?

中澤:たまたま持ってたんですよね。ずっと使う機会がなくて。(かぶってみせて)どうですか?

本橋:あ、カッコいい。いいね。

黒澤:小道具とかは、みんな自由に持ってきて、やりたい放題です。

こういう風にアイディアが生まれていくんですね(笑)
金内さんはどのような要素を持ち込まれたのでしょうか?

金内さん(以下、金内):戯曲的に貢献できているかは分からないんですけど、今思うと、冒頭のアクションシーンを書いたかもしれません。台詞とかは書いてないんですけど、流れは書いたような気がします。あと、ここから変わるかもしれないですけど、ラストのクライマックスのシーンも書きました。それと、僕は演技ができないので他の人が書いた自分の台詞は、言いやすいように勝手に変えちゃいましたね。

皆さん活動や背景がそれぞれおありですもんね。演技のやり方というか、感覚もそれぞれの方法でされているのでしょうか?

黒澤:最初だけストイックに統一しようとしていました(笑)

本橋:中澤くんが合流する前に、池田くんと金子くん二人のシーンをやっていて、そこだけ演技の統一についても話していたんですけど、結局それ以降のシーンは基本全員が出ているので、前から客観的に見る人がいなくなっちゃって……

黒澤:でも、みんなが揃うとけっこう良い感じでした。みんな、自分の劇作の公演に出演もしている人達なので、自分を俯瞰しつつ演出するという経験があるからできたのかなぁと思います。

本橋:テキストの話に戻ると、健樹くん(金内)のテキストが一番僕やっかいだなぁと思いました(笑)健樹くんは初期の話し合いの段階から、僕が思いついたことを投げると、10くらい返してくれる。展開に対する物理的なギミックとか設定をものすごく出してくれて、難しいなと思ってました。めちゃくちゃ面白かったです。

金内:設定に関してはそうですね、設定厨なところがあって……

中澤:全体の理解が深まった感じがしました。知識的というか、「もしこれをやるなら、ここまで」というのを出してくれたので、掘り下げていけるなと。

金内:確かに、数字の矛盾とか指摘しまくりましたね。「ここで20万って言ってるけど、このシーンでは30万になってる。直してください」とか。

本橋:ありがたかったです。本当に。

金内:数字と、あと、向き。方角とかにめちゃくちゃ執着があって。

黒澤:シアターイーストの上手側は西だけど、上手は東ってイメージなんだよな、とか……

金内:実は、夕陽を眺めるシーンで、今の位置だと夕陽が現実では東にある感じになっていて、どうしようかなって思ってるんです。

本橋:あー、確かに……どうしようかな……。

『Uber Boyz』稽古場でのインタビューより

本番ではどうなるか、注目ですね(笑)
ここで、改めて皆さんと本橋さんの関係性についてお伺いできればと思います。

金内:僕は自分で演劇活動を始めたのは、2年前くらいなんですけど、直接的に影響を受けたのが、3年前にウンゲツィーファがやっていた『転職生』っていう作品なんです。すごく衝撃を受けて、そこから1年くらいずっと『転職生』のことばっかり考えていました。自分が演劇をやるってなったときに、『転職生』とその1つ前の『動く物』のような、最小限の状態で演劇は成立するのではないか、みたいなことをずっと考えていたんです。ちょっと前まで僕は自分の家で演劇をやっていて、完全に影響を受けていましたね。感謝しかないです。直接話したのはここ数カ月なんですけど……

本橋:そうですね。今回の集まりは僕のネットワークというより、黒澤くんのネットワークなんですけど、僕と健樹くんはこの作品で初めて話したっていう感じで。黒澤くんがもともと交流があったんです。

金内:「ウンゲツィーファ」観に行って、終演後に本橋さんを見かけても、尊敬してるから逆に話さずに、目も合わさずに帰るっていう……

本橋:僕も、Twitterとか、人づてに金内くんがファンだってことは聞いてたんですけど、ちょっと天才のフリしちゃって、スっとした感じでいて、あんまり話せなくて(笑)でもずっと話したかったというのはあるんです。

金内:飛び上がりました。多生くん(黒澤)から「「ウンゲツィーファ」に出ませんか?」って連絡があったときは。

黒澤:僕はずっと誘いたかったんですけど、今だ!と思って。

本橋:そもそも一番最初に黒澤くんは池田くん(「ゆうめい」主宰。『Uber Boyz』に出演)のこと勝手にオファーしてたもんね。

黒澤:僕が勝手に「池田くん、「ウンゲツィーファ」に出なよ」って言ったんです。「絶対合うと思うから」って。池田くんをウンゲツィーファのどこかの公演で一緒にやりたいねという話を本橋さんにしたら、良いじゃんってなったので、最初はその3人で集まりました。じゃあ他には誰を呼ぼうかとなったときに、『Uber Boyz』の、「Uber Eatsで『AKIRA』がやりたい」というコンセプトの話をして、その世界観に合うのは健樹さんだよねと。で、健樹さんを呼ぶとなったら、もう、同世代で作・演出をやっている男子を集められればいいんじゃないかという話になって、中澤くんと金子くんはどうかなと。

本橋:中澤くんの方が先に決まった気がする。池田くんがミーティング中に電話して。みんな共通の知り合いだったっていうのもあって、その場で電話してくれたんです。

中澤:最初の連絡は池田さんから来ました。「今、本橋さんと黒澤さんとミーティングしてるんですけど、中澤さん出ませんかね?」って。冗談だと思って、すぐ本橋さんにLINEしました。「池田さんがこんなこと言ってますけど本当ですか?」って(笑)
僕は以前に一度「ウンゲツィーファ」には出演していて。池田さんの「ゆうめい」だったり、音楽の額田さん(額田大志)がやっている「ヌトミック」にも出演したことがあったんです。自分たちで作品を作りながら、年一回くらいは何かしら出演をしていて、2年前くらいに「ウンゲツィーファ」のオーディションを受けました。普段は演劇に限らずダンスとか、色々な表現で活動しているので、ちゃんと演劇をやるというのはあまりなかったんですけど、戯曲を読んで、オーディションを受けて、一度ショーケース公演に出演させていただきました。そこで黒澤さんともご一緒して、今回に繋がるという感じです。

金子:僕は、繋がりとしては黒澤さんが「コンプソンズ」に出ていてくれていたというのがあるんですけど、僕自身が「栗兎ズ」のときから本橋さんの作品を観ていたんです。

本橋:2回目の公演くらいから観てくれてたよね?

金子:そうですね。相当古参のファンだと思います。でも喋ったのは今回が初めてです。

本橋:「栗兎ズ」に初めて観に来てくれたときに、金子くんが『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズに出ていて、俺、『コワすぎ』の大ファンだったから、「うわ、『コワすぎ』の人だ!」と思って、軽く挨拶だけしました。

金子:そんなことありましたね。僕、明治大学なんですけど、明治大学の人って、本橋さんや黒澤さんの通っていた尚美学園大学の人たちと一緒に学生演劇をやっていて、その中に僕は混ざれていなかったんです。当時、僕はあんまり演劇をやっていなかったからなんですけど、そういったものを遠目で見ているうちに自分も演劇をやるようになって、黒澤くんに出てもらって、徐々になんとなく近づいて今回に至る、という……。

本橋:なんかね、共通の知り合いがめちゃくちゃ多いよね。

金子:そうですね。そんな感じなので、今更なんというか、「よろしくお願いします」みたいなのも難しいなと(笑)しかも今回、ご一緒できてすごいうれしかったなというのが、俺、『一友』っていう作品がめちゃくちゃ好きで、あれは本当に、観劇史ベストに入るというか。

本橋:あら。……うれし恥ずかしという感じですね(笑)

夢の共演ですね。

金子:僕と健樹さんは家が近所で、あと額田くんと僕は中学の同級生なんです。

そんなところでも繋がりが……! 一番皆さんと繋がりがあるのは、やはり黒澤さんなんですね?

黒澤:そうですね、自分が一番線の真ん中にいる感じはしますね。池田くんと中澤くん、金子くん、額田くん、あと自分は同い年で、92年生まれの同世代なんです。そこが一番やりたかったというか、誘いたかった理由だなと思います。そういうアベンジャーズ的なことをしたいと前々から思っていたので、実現できるならこれだなと、本橋さんと話していても思いました。

キャスティングというと、まず役があってその役にあうキャストを選ぶという流れをイメージしてしまうのですが、逆方向に進んでいくというのは面白いと感じました。

本橋:僕は普段から、この役があるからこの人にやってもらおう、というのは少なくて、それよりも多分、グルーヴが合って、楽しく良い創作の時間を送れる人、というのが一番大事だと思っていて。僕、けっこう人見知りだったり、気を遣ってしまうタイプだったりするので、はじめましての状態で、あんまり相性の良くない人がいると、もうその人との関係性を築くのですべての時間を使ってしまうところがあって……このメンバーに関しては最初にお会いした時点で、遠慮とかは一切なかったですね。

では、最後になりますが、今回の『Uber Boyz』について、見どころと意気込みをお聞かせください。

黒澤:ケガをしないように頑張ります(笑)見どころは……どのシーンを誰がアイディア出したのか、とかにも注目しながら観てもらえると面白いと思います。

本橋:ファンレベルが試されますね(笑)

金子:今まで演劇やっていて、「どれくらい笑えるか、ウケるか」みたいなことばっかり考えて来たんですけど、今回は初めて楽しいなって思えました。なので、その楽しさをどうすればお客さんにも感じてもらえるかを考えていきたいと思います。見どころは……冒頭にけっこう激しいアクションがあるのでお気に入りですね。かっこいいなと思います。

中澤:それぞれの活動というかいろんな作品づくりをしている人が集まっていることも、もちろんあるんですけど、それ以上に、最終的にできあがったものが、「ウンゲツィーファ」の最新形として楽しんでいただけるものになっているんじゃないかなと思っています。外側だけ見ればお祭りみたいな感じにも見えるかもしれないですけど、丁寧に作って、丁寧に上演していくので、これからも「ウンゲツィーファ」をよろしくお願いします。

金内:すごい、プロデューサーみたいなコメント(笑)

中澤:一過性の集まりというかは、この感覚でまた作れたらいいなっていう気持ちがあるんです。なのでお客さんには「今回限りの集まりなんだな」という気持ちよりかは、スタートを見に来てほしいなと思います。

金内:個人的な意気込みを言うと、僕、今まで自分の劇団は観客が10人くらいしか入れないような自分の家でやっていて、そこから急にシアターイーストに出て来たので、周りの人から「おい!」と言われることもあり。そういった「かまし感」というか、今まで自分の作品に出てくれた彼らにも喜んでもらえるように、良い作品にできるように頑張ります。作品的に言うと、「弱いい派」の作品ですけど、多分単純に派手で、見ていても面白いと思うので、ふつうに楽しんでみてもらえるはずです。

本橋:直球エンターテインメントだよね。

金内:そう、直球だと思います。それが番外編ではなくて、ちゃんと「ウンゲツィーファ」の作品としてヒストリーに刻まれるといいなと思います。

最後に本橋さん、お願いします。

本橋:さっき「ここからスタート」みたいな話が出たけど、まさにそうで。僕もまだ作品はこれから色々とチェックしたり練習しなければならないところはあるんですけど、わりと自分の中ではもう見えたなという感じで。ここからこの作品をどうしていこうかなという風に思っています。この公演を観に来てくれた人が次につながってくれるようなことが起きれば良いなと思っていて、それを引き出せる何かがあったらいいなと考えているところです。見どころとしては、うーん……パッと思いつかないんですけど、恐らくみんなが言ってくれたようなところだと思います。

ありがとうございました。本番をとても楽しみにしております!

「ウンゲツィーファ」出演者の皆さんにお話を伺いました。劇中に登場する自転車や小道具は、皆さんに持ち寄ったものとのこと。どの小道具を誰が用意したのか、細かいところにも要注目です!

次回は、「コトリ会議」制作の若旦那家康さんへのインタビューです。神出鬼没の謎に包まれた制作、若旦那家康とは何者なのか?!「コトリ会議」と共に歩んできた歴史を伺いました。
お楽しみに!

稽古場インタビュー

ウンゲツィーファ 作・演出:本橋龍さん

今回は、「ウンゲツィーファ」作・演出の本橋龍さんです。
6月17日(木)~20日(日)に行われていたUL公演『トルアキ』を観劇し、終演後、お話を伺いました!

本橋さん、本日は終演後のお疲れのところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします…!

本橋さん(以下、本橋):よろしくお願いします。

まずは、「ウンゲツィーファ」さんの劇団名の由来からお伺いできますでしょうか。カフカの小説『変身』から取られているのでしょうか。

本橋:そうです。でも僕、そんなにカフカが好きというわけでもなくて、『変身』くらいしか読んでないんですけど……たまたま「栗兎ズ」(「ウンゲツィーファ」の前身となる劇団)が行き詰まってもうやめようかなと思っていたときに、ちょうどカフカの『変身』の新訳版を読んだら、主人公が「ウンゲツィーファ」になるということが書いてあって。「ウンゲツィーファ」というのが、括弧つきで「生贄にできないほどの汚れた生き物」みたいに書いてあったんです。そのとき、「あ、虫じゃないんだ」と思ったんですけど、その感じが面白いなと。それで劇団名に使わせてもらったという感じです。「栗兎ズ」で最後にやった公演が演劇をやっている人たちのお話だったんですけど、その作中の劇団を「ウンゲツィーファ」と名付けて、それをそのまま、新しい劇団名にもってきたという感じですね。

そうだったんですね。今日の『トルアキ』もですが、メタフィクション的な作品構造が面白いですよね。

本橋:僕シンプルに恥ずかしがり屋なんですよ。演劇とかもやってるけど、ずっとどこかに「ダサいな、恥ずかしいな」という気持ちがあって。「全部嘘ですけどねー」ってしたい、という気持ちがある。それでメタ的に、「作りものですけど」という風にしているのはあるかもしれないですね。僕すごい不真面目な人間なんですけど、演劇10年以上も続けていると真面目に考えちゃったりもして、その上で「なんで演劇やってんだろ」ってなったときに、普段生活してて見えているものとかをすごく多面的に感じるタイプで。ずっとこの辺(肩の後ろを指す)に監視カメラみたいな、もう一個自分の目線があるような気がして生きているんです。ずっと情熱大陸とか撮られているみたいな気持ちで(笑)そういう感覚が反映されてるような感じもします。

今日の公演でも、ずっと視界の端にお芝居を観ている本橋さんがいらっしゃいましたしね。納得です。『トルアキ』の話になりますが、野外公演ならではのハプニングなんかも物語や演出の一部に見えるような、不思議な感覚になりました。良いタイミングで風が吹いたり、庭に植えられている金柑の実が落ちてきたり、あれって偶然ですよね?

本橋:もちろん偶然です(笑)でも昨日とかは近くを飛行機が通る音がすごくて、台詞もきこえなくなっちゃったり、逆にやられちまうみたいなこともありました。

「ウンゲツィーファ」UL公演『トルアキ』より

偶然の出来事を良い風に捉えてくれるというのは、お客さん、観てくれている人が勝手にそう受け取っているんだろうなと。もちろん我々も「さっきのあれ良かったね」と思うのはあるけど。やっぱり観ている人に自分で発見してもらえたらそれは素敵な体験だなと思っていて。あんまり自分たちで作り込んで、こういうテーマです、こういうことをやっていますというのを主張したくないというのはありますね。

UL(ウルトラライト)公演と銘打ってましたもんね。

本橋:はい、軽くしたい。もう演劇疲れちゃったんで(笑)演劇疲れます(笑)

えっ……芸劇eyesが1か月後に迫っているのですが、それは大丈夫なのでしょうか……(汗)

本橋:それは、はい(笑)ありがたい機会なので(笑)

よろしくお願いします……!では続いて、本橋さんの経歴について尋ねします。演劇はいつ頃から始められましたか?

本橋:高校1年生のときなんで、15歳とかかな。部活として始めて。演劇がしたくて始めたというか、友達についていった感じです。

もし、演劇部に入っていなかったら、何をやっていたと思いますか?

本橋:どうなんでしょうね。最近、なんで演劇やってんだろうなとか考えるんですけど、僕、旅が好きなんですよ。旅行に行くというよりは、旅行のスケジュールを考えるのが好きで。旅のしおりみたいな、何時にどこに行って何をするとか計画を立てるのがすごい好き。ディズニーランド行くってなったら、最初はどこのファストパス取って、とかめちゃめちゃ考えたいんです。だからもしかしたら、旅行関係のこととかやっていたかもとは思います。
あと、そういう旅行の行程を考えることと、今自分がやっている演劇の脚本・演出の作業は全く同じだなとも思います。

確かに、演劇って新しいものとの出会いがありますもんね。

本橋:そうですね。そういうのはすごく良いですよね。僕らの演劇も、手軽な旅行みたいな感覚でお客さんには見てもらいたいです。

次回の芸劇eyesでの作品、『Uber Boy(仮)』についてお伺いします。脚本の進捗はいかがでしょうか……?伺っても大丈夫でしょうか……(笑)

本橋:そうなんですよねー、いや、本当に申し訳ない(笑)でも今、ようやく動き始めて。ね。

黒澤さん(俳優。『トルアキ』、『Uber Boy(仮)』出演者):はい、本番中にめっちゃLINEグループが動いてました。

本橋:わけわかんないLINEのやりとりをしている最中です。

今回は出演者の皆さんと脚本を作られると伺っていますが、LINEグループでやりとりされているんですね。アイディアを色々な人からもらう創作方法は、普段からされているんですか?

本橋:いつもは、関係者とは脚本について話し合いながら進めるぐらいで、完全に他の人にも脚本創作の段階から入ってもらうというのは今回が初ですね。とりあえずスタート地点として、「ガスマスクつけてウーバーイーツやってるやつらがいっぱいいる」っていう画だけ僕の中にあって。「ウーバーイーツで『AKIRA』みたいなことがやりたい」っていうのだけ言ってます。そこから繋げられる意見を色々出し合っている状態で。今はなんか、フラットアース(地球平面説)でよくわかんない盛り上がり方をしています。

な、なるほど……どんな作品になるのか、想像がつかないですね(笑)

本橋:いやあ、僕もちょっとどうなっていくのか……(笑)

未知な感じが伝わってきます(笑)お聞きしたところによると、脚本執筆は、スイッチが入ると早いとか?

本橋:そうですね。でも、書くスピードはどんどん遅くなってます(笑)なんかもう、どんどん演劇に対して頑張る気力がなくなってきちゃって。まずは本当にお金が入らないので。もう30歳を過ぎると、お金のことばっかり頭にある状態だから、「なんでこんなに頑張ってやってるのにお金もらえないのかな」みたいに……ちょっとヤな話ですけど。だから今回、脚本が多人数になっているのも、もう僕一人で考えるの疲れたから、僕は一応主宰ということになっているけど、それぞれ自分たちでお話が作れる人を集めてみたら勝手にでき上るかな、みたいな。ひどい話だけど(笑)才能ある人たちばっかりなので、アベンジャーズでやらしてもらおうと。
芸劇eyesに声をかけていただいたのは2年くらい前で、そのときはちょっと「ウンゲツィーファ」が盛り上がってきている時期だったんです。そういう流れだったので、短編といわず長編やりたいな、とも思ってました。でもこの2年で色々考えも変わりましたね。価値観が変わってしまったというか。

怒涛の2年間だったと思います。社会全体の価値観も変わったところはあるのではないでしょうか。

本橋:そう思います。特に去年ぐらいは、色々と自分の中で、「演劇やめようかな」の一歩手前の、「やめてもいいや」くらいの感覚でいて。ただ、こうしてずっとやってきているんだから、やめる必要はないなとも思っていて。けどそんなに「ガツガツやっていこうぜ」という感覚はない、みたいな状態ですね。
芸劇eyesはせっかくの機会なので、普段できないようなことをやりたいと思っています。なんだかんだ、劇場でやること自体が「ウンゲツィーファ」は初めてぐらいの感じなので。楽しくやれたらいいなと。いろんな主宰の人に声をかけたので、「ウンゲツィーファ」という団体名にこだわらずに、せっかくだから、僕以外にも同じ世代でこんなに面白い人たちがいるんですよという紹介ができればと思っています。

「ウンゲツィーファ」さんの新しい挑戦、楽しみにしています。本橋さん、本日はありがとうございました!

本橋:ありがとうございました。

「ウンゲツィーファ」の本橋さんにお話を伺いました。
実際にウーバーイーツのアルバイトもされていたという本橋さん。「システムが新しくて、ゲームのクエストみたいで面白いんですよ」とのこと。「でもニュースで悪く取り上げられることもあって。せっかく新しく始まってることなんだから、もっとみんな寛容になればいいのにな、なんて思いますね」と話してくださいました。
実際の経験をもとに、どのような世界観が繰り広げられるのか、要注目です!

次回は、「コトリ会議」の山本正典さんをご紹介します。
参加3団体の中で唯一、関西発の劇団ということで、東京芸術劇場での公演をどう捉えているのか、意気込みを伺います。
お楽しみに!

インフォメーション

稽古場インタビュー②

ウンゲツィーファ 作・演出・出演:池田亮(ゆうめい)、金内健樹(盛夏火)、
金子鈴幸(コンプソンズ)、黒澤多生(青年団)、中澤陽、本橋龍(ウンゲツィーファ)

池田は電車寝過ごしのため不在

今回は、「ウンゲツィーファ」の稽古場にお邪魔し、新作『Uber Boyz』で作・演出・出演を務められる皆さんにお話を伺いました!

『Uber Boyz』稽古場でのインタビューより

皆さん、本日はお忙しい中お集りいただきありがとうございます。色々とお話を伺えればと思います。よろしくお願いいたします!
まずは本橋さんにお伺いします。稽古の進捗はいかがでしょうか?

本橋さん(以下、本橋):今は戯曲の筋が書き終わって、頭から最後までみんなで動いてやってみている、という状態ですね。戯曲を作るのに一番時間がかかりました。初めての感覚で、みんなどういう風にやっていけばいいんだろうって戸惑いながらやっていたところはありますね。動きの方は各々、自由にやってもらってます。

今回は皆さんで作られているということで、実際どのように進めていかれたのでしょうか?

本橋:まず、みんなで世界観について話し合って、ある程度世界観が出来上がってしまえば、と思っていたんですけど、なかなかまとまらなくて……

中澤さん(以下、中澤):それぞれ「こういう世界観だったらこういう会話もあるよね」というのを出してもらって、そこからどんどん、じゃあ誰が主人公でどういう話にすればこの話はまとまるぞ、というのを言っていって。試しにみんなで、一人1ストーリー、冒頭のシーンを書いてみたりもしました。

本橋:そうですね、みんなに冒頭を書いてもらいました。世界観はまとまらなかったので、まとまらない中でスタートしてみようと。結局最後までまとまらないまま、その「まとまらない」というのがある意味一つの世界観だと僕個人は解釈しています。

中澤:一番最初は、ただ雑談だけ書いてみようみたいなことをしました。世界観や設定というよりかは、単純に作品の中身が複雑だ、みたいなのが良いよねと、僕らで雑談している会話の感じをそのまま書いてみたりしました。けっこう意味わかんない感じのときありましたよね。そこから世界観ちゃんと作らなきゃだめだね、となり…

本橋:そうだね、それが一番最初だったね。雑談のテキストを作る時間がありました。池田くんと中澤くんが書いてくれたよね。

『Uber Boyz』稽古場より

皆さんそれぞれどのような要素を作品に持ち込んでいったのか、伺えますでしょうか?

黒澤さん(以下、黒澤):俺が一番この中で脚本を書いたことがなくて、だから実際に自分でも書いてみたけど、やっぱり「これはひどい」って思ってしまって。自分はあまり脚本出しはしないで、みんなから上がってきた脚本をまとめる方に終始したかなという感じです。

本橋:黒澤くん、書いても見せてくれないから、「見せてよ見せてよ~」って言って。そしたら「あ、もう消したんで」とか言われたり(笑)

黒澤:いやもう、本当に見せられるものじゃなくて。書く人ってすごいなぁって思いました。

本橋:でも、最後の方はGoogle driveを使ってみんなで書き込んでいったんですけど、黒澤くん、けっこう書き込んでくれて。普通に良い感じの台詞を書いてくれてましたけどね。全然、書けるなぁと思っていました。

金子さんはどうでしたか?

金子さん(以下、金子):えっと…けっこうみんな小出しにアイディア出していったので、俺が何をやったみたいなのは、うーん……

本橋:金子くんは、冒頭のシーンに割と長めの、しっかり書き込んだテキストを書いて出してくれました。

黒澤:そこに金子くんオリジナルの設定とか色々あったりして、それを、あ、これ面白いから採用したいね、みたいな。あと名前を最初にみんな決めたんですよね。自分のキャラクターの名前は自分で決めよう、とか。

金子さんの役名は、「コナン」ですね。

金子:なんの思い入れもないんですけどね、コナンには。

黒澤:Zoom会議のときに、役名それぞれ決めようってなって。その時金子くんが自分の家の本棚から名前をつけようとしてて、「それコナンじゃん」って。

金子:そこから色々連想した設定もあって。意外とコナンのこと覚えてるなぁって(笑)

本橋:金子くんのテキストを見たとき、すごく「コンプソンズ」だと思って。なるほど、という感じがしました。やっぱりそれぞれが書くと、当然それぞれの色になって。大筋の流れは決まりつつあったんですけど、同じ流れでも書く人によって色が違ってくるのは面白いなと思いました。

金子:世界観が固まった段階で、シーンごとに人物の出入りは決まったんです。このシーンは誰と誰が喋って、誰がハケていって……という。その段階でみんなで一斉に書いたので、流れは同じなのに全然違うテキストが何個かできて、それをミックスしていった、みたいな感じでしたね。

面白い作り方ですね。IFの世界がいっぱいできたというか……

本橋:そうですね、面白かったです。

続いて、中澤さんはどうでしたか?

中澤:僕も劇作家ではないので、普段からテキストを書いたりはしないんですけど、基本的には本橋さんたちと相談して、どういうことを喋ってほしいかな、ということを文字にしました。あとは誰かがまとめてくれるだろうという感じで……(笑)最初は、ゼロからというより、一番初めに本橋さんが書いてくれた冒頭のシーンがあって、こういう流れだったらもうイケるじゃんと思ったんですけど、とりあえずそれを全部破壊する感じで、反対のことを書こうと思ったんですね。筋はそのままだけど、全部破壊したようなものを出したら、それがけっこう残っていて……大丈夫なのかなって思うんですけど(笑)ダメって言われてもいいやと思ってやりました。

本橋:中澤くんは一番最初に僕が出したテキストを作り変えてくれたので、僕としてはこうして集団で作る意義を改めて感じた瞬間でした。普段自分で書いているといつも同じ感じになるのを、どうやったら抜け出せるんだろうって、もう何年も悩んでいたんですけど……割と単純に、たとえば「バスケ」っていうキャラがいるんですけど、そいつの名前を「ババババババスケ」みたいに書いてきたりして、なんかバグってる感じが出ていて。こういう変換の仕方をなんで今まで思いつかなかったんだろうって思いました。うれしかったですね。すごく勉強になりました。この公演がどうなっても持ち帰れるものがあるなと……(笑)

一同:(笑)

ちなみに、中澤さんは今手元にペストマスクを持ってらっしゃいますが、それは私物でしょうか……?

中澤:たまたま持ってたんですよね。ずっと使う機会がなくて。(かぶってみせて)どうですか?

本橋:あ、カッコいい。いいね。

黒澤:小道具とかは、みんな自由に持ってきて、やりたい放題です。

こういう風にアイディアが生まれていくんですね(笑)
金内さんはどのような要素を持ち込まれたのでしょうか?

金内さん(以下、金内):戯曲的に貢献できているかは分からないんですけど、今思うと、冒頭のアクションシーンを書いたかもしれません。台詞とかは書いてないんですけど、流れは書いたような気がします。あと、ここから変わるかもしれないですけど、ラストのクライマックスのシーンも書きました。それと、僕は演技ができないので他の人が書いた自分の台詞は、言いやすいように勝手に変えちゃいましたね。

皆さん活動や背景がそれぞれおありですもんね。演技のやり方というか、感覚もそれぞれの方法でされているのでしょうか?

黒澤:最初だけストイックに統一しようとしていました(笑)

本橋:中澤くんが合流する前に、池田くんと金子くん二人のシーンをやっていて、そこだけ演技の統一についても話していたんですけど、結局それ以降のシーンは基本全員が出ているので、前から客観的に見る人がいなくなっちゃって……

黒澤:でも、みんなが揃うとけっこう良い感じでした。みんな、自分の劇作の公演に出演もしている人達なので、自分を俯瞰しつつ演出するという経験があるからできたのかなぁと思います。

本橋:テキストの話に戻ると、健樹くん(金内)のテキストが一番僕やっかいだなぁと思いました(笑)健樹くんは初期の話し合いの段階から、僕が思いついたことを投げると、10くらい返してくれる。展開に対する物理的なギミックとか設定をものすごく出してくれて、難しいなと思ってました。めちゃくちゃ面白かったです。

金内:設定に関してはそうですね、設定厨なところがあって……

中澤:全体の理解が深まった感じがしました。知識的というか、「もしこれをやるなら、ここまで」というのを出してくれたので、掘り下げていけるなと。

金内:確かに、数字の矛盾とか指摘しまくりましたね。「ここで20万って言ってるけど、このシーンでは30万になってる。直してください」とか。

本橋:ありがたかったです。本当に。

金内:数字と、あと、向き。方角とかにめちゃくちゃ執着があって。

黒澤:シアターイーストの上手側は西だけど、上手は東ってイメージなんだよな、とか……

金内:実は、夕陽を眺めるシーンで、今の位置だと夕陽が現実では東にある感じになっていて、どうしようかなって思ってるんです。

本橋:あー、確かに……どうしようかな……。

『Uber Boyz』稽古場でのインタビューより

本番ではどうなるか、注目ですね(笑)
ここで、改めて皆さんと本橋さんの関係性についてお伺いできればと思います。

金内:僕は自分で演劇活動を始めたのは、2年前くらいなんですけど、直接的に影響を受けたのが、3年前にウンゲツィーファがやっていた『転職生』っていう作品なんです。すごく衝撃を受けて、そこから1年くらいずっと『転職生』のことばっかり考えていました。自分が演劇をやるってなったときに、『転職生』とその1つ前の『動く物』のような、最小限の状態で演劇は成立するのではないか、みたいなことをずっと考えていたんです。ちょっと前まで僕は自分の家で演劇をやっていて、完全に影響を受けていましたね。感謝しかないです。直接話したのはここ数カ月なんですけど……

本橋:そうですね。今回の集まりは僕のネットワークというより、黒澤くんのネットワークなんですけど、僕と健樹くんはこの作品で初めて話したっていう感じで。黒澤くんがもともと交流があったんです。

金内:「ウンゲツィーファ」観に行って、終演後に本橋さんを見かけても、尊敬してるから逆に話さずに、目も合わさずに帰るっていう……

本橋:僕も、Twitterとか、人づてに金内くんがファンだってことは聞いてたんですけど、ちょっと天才のフリしちゃって、スっとした感じでいて、あんまり話せなくて(笑)でもずっと話したかったというのはあるんです。

金内:飛び上がりました。多生くん(黒澤)から「「ウンゲツィーファ」に出ませんか?」って連絡があったときは。

黒澤:僕はずっと誘いたかったんですけど、今だ!と思って。

本橋:そもそも一番最初に黒澤くんは池田くん(「ゆうめい」主宰。『Uber Boyz』に出演)のこと勝手にオファーしてたもんね。

黒澤:僕が勝手に「池田くん、「ウンゲツィーファ」に出なよ」って言ったんです。「絶対合うと思うから」って。池田くんをウンゲツィーファのどこかの公演で一緒にやりたいねという話を本橋さんにしたら、良いじゃんってなったので、最初はその3人で集まりました。じゃあ他には誰を呼ぼうかとなったときに、『Uber Boyz』の、「Uber Eatsで『AKIRA』がやりたい」というコンセプトの話をして、その世界観に合うのは健樹さんだよねと。で、健樹さんを呼ぶとなったら、もう、同世代で作・演出をやっている男子を集められればいいんじゃないかという話になって、中澤くんと金子くんはどうかなと。

本橋:中澤くんの方が先に決まった気がする。池田くんがミーティング中に電話して。みんな共通の知り合いだったっていうのもあって、その場で電話してくれたんです。

中澤:最初の連絡は池田さんから来ました。「今、本橋さんと黒澤さんとミーティングしてるんですけど、中澤さん出ませんかね?」って。冗談だと思って、すぐ本橋さんにLINEしました。「池田さんがこんなこと言ってますけど本当ですか?」って(笑)
僕は以前に一度「ウンゲツィーファ」には出演していて。池田さんの「ゆうめい」だったり、音楽の額田さん(額田大志)がやっている「ヌトミック」にも出演したことがあったんです。自分たちで作品を作りながら、年一回くらいは何かしら出演をしていて、2年前くらいに「ウンゲツィーファ」のオーディションを受けました。普段は演劇に限らずダンスとか、色々な表現で活動しているので、ちゃんと演劇をやるというのはあまりなかったんですけど、戯曲を読んで、オーディションを受けて、一度ショーケース公演に出演させていただきました。そこで黒澤さんともご一緒して、今回に繋がるという感じです。

金子:僕は、繋がりとしては黒澤さんが「コンプソンズ」に出ていてくれていたというのがあるんですけど、僕自身が「栗兎ズ」のときから本橋さんの作品を観ていたんです。

本橋:2回目の公演くらいから観てくれてたよね?

金子:そうですね。相当古参のファンだと思います。でも喋ったのは今回が初めてです。

本橋:「栗兎ズ」に初めて観に来てくれたときに、金子くんが『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズに出ていて、俺、『コワすぎ』の大ファンだったから、「うわ、『コワすぎ』の人だ!」と思って、軽く挨拶だけしました。

金子:そんなことありましたね。僕、明治大学なんですけど、明治大学の人って、本橋さんや黒澤さんの通っていた尚美学園大学の人たちと一緒に学生演劇をやっていて、その中に僕は混ざれていなかったんです。当時、僕はあんまり演劇をやっていなかったからなんですけど、そういったものを遠目で見ているうちに自分も演劇をやるようになって、黒澤くんに出てもらって、徐々になんとなく近づいて今回に至る、という……。

本橋:なんかね、共通の知り合いがめちゃくちゃ多いよね。

金子:そうですね。そんな感じなので、今更なんというか、「よろしくお願いします」みたいなのも難しいなと(笑)しかも今回、ご一緒できてすごいうれしかったなというのが、俺、『一友』っていう作品がめちゃくちゃ好きで、あれは本当に、観劇史ベストに入るというか。

本橋:あら。……うれし恥ずかしという感じですね(笑)

夢の共演ですね。

金子:僕と健樹さんは家が近所で、あと額田くんと僕は中学の同級生なんです。

そんなところでも繋がりが……! 一番皆さんと繋がりがあるのは、やはり黒澤さんなんですね?

黒澤:そうですね、自分が一番線の真ん中にいる感じはしますね。池田くんと中澤くん、金子くん、額田くん、あと自分は同い年で、92年生まれの同世代なんです。そこが一番やりたかったというか、誘いたかった理由だなと思います。そういうアベンジャーズ的なことをしたいと前々から思っていたので、実現できるならこれだなと、本橋さんと話していても思いました。

キャスティングというと、まず役があってその役にあうキャストを選ぶという流れをイメージしてしまうのですが、逆方向に進んでいくというのは面白いと感じました。

本橋:僕は普段から、この役があるからこの人にやってもらおう、というのは少なくて、それよりも多分、グルーヴが合って、楽しく良い創作の時間を送れる人、というのが一番大事だと思っていて。僕、けっこう人見知りだったり、気を遣ってしまうタイプだったりするので、はじめましての状態で、あんまり相性の良くない人がいると、もうその人との関係性を築くのですべての時間を使ってしまうところがあって……このメンバーに関しては最初にお会いした時点で、遠慮とかは一切なかったですね。

では、最後になりますが、今回の『Uber Boyz』について、見どころと意気込みをお聞かせください。

黒澤:ケガをしないように頑張ります(笑)見どころは……どのシーンを誰がアイディア出したのか、とかにも注目しながら観てもらえると面白いと思います。

本橋:ファンレベルが試されますね(笑)

金子:今まで演劇やっていて、「どれくらい笑えるか、ウケるか」みたいなことばっかり考えて来たんですけど、今回は初めて楽しいなって思えました。なので、その楽しさをどうすればお客さんにも感じてもらえるかを考えていきたいと思います。見どころは……冒頭にけっこう激しいアクションがあるのでお気に入りですね。かっこいいなと思います。

中澤:それぞれの活動というかいろんな作品づくりをしている人が集まっていることも、もちろんあるんですけど、それ以上に、最終的にできあがったものが、「ウンゲツィーファ」の最新形として楽しんでいただけるものになっているんじゃないかなと思っています。外側だけ見ればお祭りみたいな感じにも見えるかもしれないですけど、丁寧に作って、丁寧に上演していくので、これからも「ウンゲツィーファ」をよろしくお願いします。

金内:すごい、プロデューサーみたいなコメント(笑)

中澤:一過性の集まりというかは、この感覚でまた作れたらいいなっていう気持ちがあるんです。なのでお客さんには「今回限りの集まりなんだな」という気持ちよりかは、スタートを見に来てほしいなと思います。

金内:個人的な意気込みを言うと、僕、今まで自分の劇団は観客が10人くらいしか入れないような自分の家でやっていて、そこから急にシアターイーストに出て来たので、周りの人から「おい!」と言われることもあり。そういった「かまし感」というか、今まで自分の作品に出てくれた彼らにも喜んでもらえるように、良い作品にできるように頑張ります。作品的に言うと、「弱いい派」の作品ですけど、多分単純に派手で、見ていても面白いと思うので、ふつうに楽しんでみてもらえるはずです。

本橋:直球エンターテインメントだよね。

金内:そう、直球だと思います。それが番外編ではなくて、ちゃんと「ウンゲツィーファ」の作品としてヒストリーに刻まれるといいなと思います。

最後に本橋さん、お願いします。

本橋:さっき「ここからスタート」みたいな話が出たけど、まさにそうで。僕もまだ作品はこれから色々とチェックしたり練習しなければならないところはあるんですけど、わりと自分の中ではもう見えたなという感じで。ここからこの作品をどうしていこうかなという風に思っています。この公演を観に来てくれた人が次につながってくれるようなことが起きれば良いなと思っていて、それを引き出せる何かがあったらいいなと考えているところです。見どころとしては、うーん……パッと思いつかないんですけど、恐らくみんなが言ってくれたようなところだと思います。

ありがとうございました。本番をとても楽しみにしております!

「ウンゲツィーファ」出演者の皆さんにお話を伺いました。劇中に登場する自転車や小道具は、皆さんに持ち寄ったものとのこと。どの小道具を誰が用意したのか、細かいところにも要注目です!

次回は、「コトリ会議」制作の若旦那家康さんへのインタビューです。神出鬼没の謎に包まれた制作、若旦那家康とは何者なのか?!「コトリ会議」と共に歩んできた歴史を伺いました。
お楽しみに!

稽古場インタビュー

ウンゲツィーファ 作・演出:本橋龍さん

今回は、「ウンゲツィーファ」作・演出の本橋龍さんです。
6月17日(木)~20日(日)に行われていたUL公演『トルアキ』を観劇し、終演後、お話を伺いました!

本橋さん、本日は終演後のお疲れのところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします…!

本橋さん(以下、本橋):よろしくお願いします。

まずは、「ウンゲツィーファ」さんの劇団名の由来からお伺いできますでしょうか。カフカの小説『変身』から取られているのでしょうか。

本橋:そうです。でも僕、そんなにカフカが好きというわけでもなくて、『変身』くらいしか読んでないんですけど……たまたま「栗兎ズ」(「ウンゲツィーファ」の前身となる劇団)が行き詰まってもうやめようかなと思っていたときに、ちょうどカフカの『変身』の新訳版を読んだら、主人公が「ウンゲツィーファ」になるということが書いてあって。「ウンゲツィーファ」というのが、括弧つきで「生贄にできないほどの汚れた生き物」みたいに書いてあったんです。そのとき、「あ、虫じゃないんだ」と思ったんですけど、その感じが面白いなと。それで劇団名に使わせてもらったという感じです。「栗兎ズ」で最後にやった公演が演劇をやっている人たちのお話だったんですけど、その作中の劇団を「ウンゲツィーファ」と名付けて、それをそのまま、新しい劇団名にもってきたという感じですね。

そうだったんですね。今日の『トルアキ』もですが、メタフィクション的な作品構造が面白いですよね。

本橋:僕シンプルに恥ずかしがり屋なんですよ。演劇とかもやってるけど、ずっとどこかに「ダサいな、恥ずかしいな」という気持ちがあって。「全部嘘ですけどねー」ってしたい、という気持ちがある。それでメタ的に、「作りものですけど」という風にしているのはあるかもしれないですね。僕すごい不真面目な人間なんですけど、演劇10年以上も続けていると真面目に考えちゃったりもして、その上で「なんで演劇やってんだろ」ってなったときに、普段生活してて見えているものとかをすごく多面的に感じるタイプで。ずっとこの辺(肩の後ろを指す)に監視カメラみたいな、もう一個自分の目線があるような気がして生きているんです。ずっと情熱大陸とか撮られているみたいな気持ちで(笑)そういう感覚が反映されてるような感じもします。

今日の公演でも、ずっと視界の端にお芝居を観ている本橋さんがいらっしゃいましたしね。納得です。『トルアキ』の話になりますが、野外公演ならではのハプニングなんかも物語や演出の一部に見えるような、不思議な感覚になりました。良いタイミングで風が吹いたり、庭に植えられている金柑の実が落ちてきたり、あれって偶然ですよね?

本橋:もちろん偶然です(笑)でも昨日とかは近くを飛行機が通る音がすごくて、台詞もきこえなくなっちゃったり、逆にやられちまうみたいなこともありました。

「ウンゲツィーファ」UL公演『トルアキ』より

偶然の出来事を良い風に捉えてくれるというのは、お客さん、観てくれている人が勝手にそう受け取っているんだろうなと。もちろん我々も「さっきのあれ良かったね」と思うのはあるけど。やっぱり観ている人に自分で発見してもらえたらそれは素敵な体験だなと思っていて。あんまり自分たちで作り込んで、こういうテーマです、こういうことをやっていますというのを主張したくないというのはありますね。

UL(ウルトラライト)公演と銘打ってましたもんね。

本橋:はい、軽くしたい。もう演劇疲れちゃったんで(笑)演劇疲れます(笑)

えっ……芸劇eyesが1か月後に迫っているのですが、それは大丈夫なのでしょうか……(汗)

本橋:それは、はい(笑)ありがたい機会なので(笑)

よろしくお願いします……!では続いて、本橋さんの経歴について尋ねします。演劇はいつ頃から始められましたか?

本橋:高校1年生のときなんで、15歳とかかな。部活として始めて。演劇がしたくて始めたというか、友達についていった感じです。

もし、演劇部に入っていなかったら、何をやっていたと思いますか?

本橋:どうなんでしょうね。最近、なんで演劇やってんだろうなとか考えるんですけど、僕、旅が好きなんですよ。旅行に行くというよりは、旅行のスケジュールを考えるのが好きで。旅のしおりみたいな、何時にどこに行って何をするとか計画を立てるのがすごい好き。ディズニーランド行くってなったら、最初はどこのファストパス取って、とかめちゃめちゃ考えたいんです。だからもしかしたら、旅行関係のこととかやっていたかもとは思います。
あと、そういう旅行の行程を考えることと、今自分がやっている演劇の脚本・演出の作業は全く同じだなとも思います。

確かに、演劇って新しいものとの出会いがありますもんね。

本橋:そうですね。そういうのはすごく良いですよね。僕らの演劇も、手軽な旅行みたいな感覚でお客さんには見てもらいたいです。

次回の芸劇eyesでの作品、『Uber Boy(仮)』についてお伺いします。脚本の進捗はいかがでしょうか……?伺っても大丈夫でしょうか……(笑)

本橋:そうなんですよねー、いや、本当に申し訳ない(笑)でも今、ようやく動き始めて。ね。

黒澤さん(俳優。『トルアキ』、『Uber Boy(仮)』出演者):はい、本番中にめっちゃLINEグループが動いてました。

本橋:わけわかんないLINEのやりとりをしている最中です。

今回は出演者の皆さんと脚本を作られると伺っていますが、LINEグループでやりとりされているんですね。アイディアを色々な人からもらう創作方法は、普段からされているんですか?

本橋:いつもは、関係者とは脚本について話し合いながら進めるぐらいで、完全に他の人にも脚本創作の段階から入ってもらうというのは今回が初ですね。とりあえずスタート地点として、「ガスマスクつけてウーバーイーツやってるやつらがいっぱいいる」っていう画だけ僕の中にあって。「ウーバーイーツで『AKIRA』みたいなことがやりたい」っていうのだけ言ってます。そこから繋げられる意見を色々出し合っている状態で。今はなんか、フラットアース(地球平面説)でよくわかんない盛り上がり方をしています。

な、なるほど……どんな作品になるのか、想像がつかないですね(笑)

本橋:いやあ、僕もちょっとどうなっていくのか……(笑)

未知な感じが伝わってきます(笑)お聞きしたところによると、脚本執筆は、スイッチが入ると早いとか?

本橋:そうですね。でも、書くスピードはどんどん遅くなってます(笑)なんかもう、どんどん演劇に対して頑張る気力がなくなってきちゃって。まずは本当にお金が入らないので。もう30歳を過ぎると、お金のことばっかり頭にある状態だから、「なんでこんなに頑張ってやってるのにお金もらえないのかな」みたいに……ちょっとヤな話ですけど。だから今回、脚本が多人数になっているのも、もう僕一人で考えるの疲れたから、僕は一応主宰ということになっているけど、それぞれ自分たちでお話が作れる人を集めてみたら勝手にでき上るかな、みたいな。ひどい話だけど(笑)才能ある人たちばっかりなので、アベンジャーズでやらしてもらおうと。
芸劇eyesに声をかけていただいたのは2年くらい前で、そのときはちょっと「ウンゲツィーファ」が盛り上がってきている時期だったんです。そういう流れだったので、短編といわず長編やりたいな、とも思ってました。でもこの2年で色々考えも変わりましたね。価値観が変わってしまったというか。

怒涛の2年間だったと思います。社会全体の価値観も変わったところはあるのではないでしょうか。

本橋:そう思います。特に去年ぐらいは、色々と自分の中で、「演劇やめようかな」の一歩手前の、「やめてもいいや」くらいの感覚でいて。ただ、こうしてずっとやってきているんだから、やめる必要はないなとも思っていて。けどそんなに「ガツガツやっていこうぜ」という感覚はない、みたいな状態ですね。
芸劇eyesはせっかくの機会なので、普段できないようなことをやりたいと思っています。なんだかんだ、劇場でやること自体が「ウンゲツィーファ」は初めてぐらいの感じなので。楽しくやれたらいいなと。いろんな主宰の人に声をかけたので、「ウンゲツィーファ」という団体名にこだわらずに、せっかくだから、僕以外にも同じ世代でこんなに面白い人たちがいるんですよという紹介ができればと思っています。

「ウンゲツィーファ」さんの新しい挑戦、楽しみにしています。本橋さん、本日はありがとうございました!

本橋:ありがとうございました。

「ウンゲツィーファ」の本橋さんにお話を伺いました。
実際にウーバーイーツのアルバイトもされていたという本橋さん。「システムが新しくて、ゲームのクエストみたいで面白いんですよ」とのこと。「でもニュースで悪く取り上げられることもあって。せっかく新しく始まってることなんだから、もっとみんな寛容になればいいのにな、なんて思いますね」と話してくださいました。
実際の経験をもとに、どのような世界観が繰り広げられるのか、要注目です!

次回は、「コトリ会議」の山本正典さんをご紹介します。
参加3団体の中で唯一、関西発の劇団ということで、東京芸術劇場での公演をどう捉えているのか、意気込みを伺います。
お楽しみに!

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